If opened it might sing a song(音無Side)


【中庭】


「え?かなでちゃんに何かプレゼントしたいって?」
「ああ。かなでさ、卒業式すらしたことないって言ってたんだ。
だからもっと普通の・・・その、誰でも体験してそうなこと・・・・・・きっと、それすらも出来てないんじゃないかなって。」
「へぇ・・・うーむ。」

日向はわざとらしい唸り声と共に腕を組んでいた。
腕の組み方と言い唸り声と言い実にわざとらしい・・・が、コイツのことだ。
本当はちゃんと考えてくれてるんだろう。

「確かにあるのかもしれないな・・・あんな性格してるし!」

あんな性格、な。
見たまんま不器用だからな・・・かなでは。

「・・・で、お前は何をプレゼントするのかとか考えたのか?」
「・・・ギルド。あいつらなら手先は器用だろ?だから連絡して何か作っておいて貰おうかな・・・と思ってるんだ。どうだ?」
「俺はギルドの奴らに何か作って貰うのは賛成だけどよぉ・・・でもギルドに連絡するのはマズくねぇか?」 

日向の顔は難色を示す・・・よっぽど連絡することにマズいことがあるんだろう。
だけど連絡を入れておかないとまたあのトラップをくぐり抜けなきゃいけなくなる。
さすがにそれは避けたい。しかも今回は俺と日向だけ・・・最初から2人だけだからな。

「・・・どうしてだ?」
「少なくともトラップ解除するとなるとギルドのリーダーに・・・ゆりっぺに伝わっちまう。」

・・・・・・そうか。忘れてた。
私用の降下のためとはいえトラップ解除ともなれば理由も必要だろうし、理由とトラップ解除の報告はゆりに確とされるだろう。
バレたらきっと今回のオペレーションはマジックボックスぅ〜とか言ってかなでへのプレゼントが神様もビックリ仰天なビックリ箱になっちまう!
それだけは避けなければ。

「くそ!・・・どうすればいいんだ。」
「そりゃトラップをくぐっていくしかねぇと思うぜ?・・・俺らだけでな。」
「僕も居ますよ。」
「な、お前・・・いつから聞いてたんだよ!?」

・・・直井は本当に神出鬼没だ。

「ふっ。音無さんの居るところに僕が居て何がいけないと言うのだ。
安心してください音無さん!僕が居ればどんなトラップが待ちうけようが・・・」
「お前は音無より詳しくねーだろうが!ギルドにもトラップにも!!切断レーザー光線トラップとか解除出来んのかお前!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ。神に不可能などない。」
「・・・本当に考えてなかったんだな。」

どうやらメンバーは3人に増えたようだ。
全く居ないより少しは居た方がいいだろう。きっと。
ギルドに潜るたびに阿鼻叫喚を上げつつ減っていく仲間の姿が脳裏に・・・デジャヴだろうか。

「・・・それで音無さん。作って貰う立華さんに渡すものは既に考えてるんですか?」
「ああ。連絡も入れないことになったし・・・だからあとは行くだけだ。」

ちゃんと・・・ちゃんと決めているさ。
アレならきっと似合うと思うしかなでが持ってても変じゃない・・・何となくだけどな。


【ギルド連絡通路】


「どうした、もう怯えているのか?」
「馬鹿な。・・・神であるこの僕が?」
「俺の袖から手を離してから言おうな。」

パシン、と手を叩き落としておいた。

「あ〜〜!!音無さぁん〜!!」

たった3人なのに本当に賑やかだ。
主に賑やかにしているのは日向と直井の2人。遠足と勘違いしてるんじゃないだろうか。
・・・ん?何故か日向がカカシのようにT字になって固まっている。そのままトラップに引っかかっても知らな・・・

「・・・って!!伏せろ!日向ぁぁぁ!!」




・・・。




振り子状の巨大な斧が日向にめがけて迫っていた。
・・・もし俺が踏み切るのがあと少し遅かったらアジの開きならぬヒナタの開きになっていたかと思うと戦慄した。

「・・・わ、わり。ありがとな。」
「いいって・・・なあ、日向。」
「ん?」
「初めてギルドに潜った時のこと覚えてるか?」

・・・あれは俺がこの世界に来て日が浅かった頃の話だ。
懐かしいな。最初は空からの降下かと思ってたっけ。

「・・・・・・あぁ。今回は俺が助けられたな。」
「・・・だな。これで貸し借りはナシな。」
「バーカ。俺たちは親友だろ?・・貸し借りなんて気にするチャチな関係だったのか?」
「・・・・・・・・・それもそうだな。」

「・・・音無さん。・・・・・・いつまでそうやって抱き合ってるつもりなんですか・・・?僕にそれを見せ付けてどうするんですか・・・?」

・・・まぁ、うん。俺が日向を押し倒しているカッコウだ。助けるための不可抗力ではあった。
・・・・・・・・・だがさすがにずっとそのカッコウを維持してるのはヨクナイのだろう。色々と。
と言うことで俺たちは即座に起き上がり離れた。

「音無・・・コレなのか?」
「ちげーよ。・・・・・・日向お前こそすぐ言わなかったじゃねーか。・・・まさかまんざらでもなかったとか」
「ば、馬鹿か!コレなお前の目にはそう見えるのか?!見えたのか!?」
「・・・・・・さぁな。どっちでも一緒だろ?」
「ライトとマツダだ!!」

それを言うなら月とスッポンだからな?

「いいから行きましょう。先は長いですよ。」

直井に仕切られてしまった。


【オールドギルド】


「ふー、無事辿り着けたな。」
「・・・ふんっ。神である僕のお陰だと言うことを魂に刻んでおけ愚民。」
「お前が足引っ張ってんじゃねーか!」
「何を言う!貴様が僕と音無さんの足を引っ張って・・・」

・・・直井と日向が一番のトラップだった。
驚くほど罠と言う罠を発動させたこの2人のお陰で帰りは楽になりそうだ。
そして幾多のトラップを潜り抜けついにオールドギルドについた。

「チャー!話があるんだ。」

・・・どこから何度見ても学生には見えないチャーに事情を話した。

「分かった。記憶を持った奴が居るかは分からんが作れたら持っていかせる。だが期待はするな。」
「ああ、ありがとう。」

「これで帰れますね!音無さん!」
「家に帰るまでが遠足だぜ?」
「・・・馬鹿か。家ではなく寮だろう。」
「んなこた分かってるっつーの!」

本当に遠足気分だったんだな・・・こいつら・・・。





・・・。





【中庭】


「どうぞ音無さん。コレが頼まれてたものです。」
「作れる記憶があった奴がいたんだな!?」
「いえ・・・居ませんでした。なのでちゃんと毎回動くか保障出来ません。せめてものお詫びとしてこちらで包んでおきました。プレゼント用と聞いていたので・・・。」
「そっか・・・ありがとな。」

少なくとも鳴る・・・んだろう。毎回の保障がないだけで。

「いえ。お役に立てなくてすいません・・・。」
「いや、大丈夫だよ。」

・・・さて。どうやって渡そうか。特別な演出でもした方がいいんだろうか。
・・・・・・思ってるような反応は貰えないだろうけどな。

「お!音無!・・・それが例の、言ってたプレゼントか?」
「ああ。・・・ただまともに動くか分からないらしい。」
「なんだよそれ・・・そんなので渡しちゃっていいのか?」
「まぁ・・・渡すよ。こういうのって気持ち・・・って言うか想いが大事だと思うから、さ。」
「そうか・・・そうだよな!・・・・・・想い・・・、な。かなでちゃんに伝わるといいな。お前のその・・・・・・想い。」

日向・・・ああ。お前の想いも伝わるといいな。
もう住む世界が違っても。きっと。・・・・・・きっと伝わってる。

「・・・あ、そうだ。ゆりっぺから集合かかった。多分オペレーションだろうな。プレゼントは制服の裏に隠しておいてこのまま行こうぜ!」
「あ、ああ。分かった。」

このタイミングでか・・・バレてないといいけど。


【対天使作戦本部】


「ゆり、一体何の作戦が始まるんだ?」
「・・・みんな集まった?さぁ今からやるオペレーションの説明をするわ。・・・作戦名はマジックボックスよ!」

・・・本当にマジックだな。
もしかしなくても俺の頭の中をゆりが覗いてるんじゃないか?

「この作戦は曲に合わせて手持ちのプレゼントを隣の人に回していって曲が止まった時に自分が持ってたプレゼントを開けるの。
つまりプレゼントに細工をしてかなでちゃんをトラップに掛けるのよ!さらにかなでちゃんのプレゼントで趣向が分かる一石二鳥の凄い作戦よ!」

プレゼント交換会・・・?どう考えても・・・そりゃあれだけトラップを作動させればバレるだろうな。
しかし陰湿な作戦だな・・・かなでが体験したことなさそうで興味も持ちそうな。

「ね、ねえ。ゆりっぺ!僕思うんだけど・・・それって立華さんだけじゃなくて僕らも開けるから僕らもトラップにかかるんじゃ・・・」
「・・・・・・・・・・・・。」

・・・まさかそこは考えてなかったのか。とんだドジっ娘だな。

「と、とにかくみんな何かトラップレゼントを今すぐ作って体育館に持って行って!!それじゃオペレーションスタート!」




・・・ピンポンパンポーン。
「「「生徒会長の立華 かなでさん。今すぐ人に渡せる程度の大切なものを1つ持って、体育館に来てください。繰り返します・・・」」」


暫くして校内放送が鳴り響いた、と同時に何故か学食の激辛麻婆豆腐(300円)が頭をよぎった。


【体育館】


「・・・一体何?」
「食券?ええと・・・見せて。麻婆豆腐!?」

・・・まさかとは思ったが麻婆豆腐の食券を持ってくるとは。
こいつぁ無意識に俺らにトラップ返しを仕掛けてきてるぞ!かなでは!!

「そ、それが人に渡せる大切なものなの・・・?」
「・・・。(コクン)」
「そ、そう・・・まぁいいわ。みんなも準備出来た?説明するわね。今から・・・」

他の奴のはちゃんと包装されていて中身が分からない・・・とまでは言えないな。
包装が下手とかの問題じゃない大きさの・・・あれはどうみてもあいつがいつも持ってる武器だよな?まぁいいか。

「かなでちゃんオーケー?」
「うん・・・分かった。」
「じゃあ曲をかけて、テキトーな所で止めて。」
「・・・了解です。(カチャ)」

・・・この曲は岩沢の?


・・・・・・あぁ!まだ押すな!・・・頼む!一つずれてくれ!


・・・。

もう一度カチャ、と音がして停止ボタンを押されたらしく流れていた曲は止まった。
・・・くそ。奇跡は起きなかったのか。何故か俺以外、野田やゆりもガッカリしてるように見え・・・たけど気のせいか。
野田は目に見えて気のせいじゃないだろう。狙いはゆりとのプレゼント交換だったか。

「・・・さぁ開けましょ?かなでちゃんも。」

開けるように促した本人は開ける気は微塵もなく他のメンバーも片手間に開けつつかなでを見守っていた。

「・・・・・・・・・私のものと同じ?」

・・・・・・・・・そうなんだ。
確実に渡せる訳じゃないから摩り替えておいたんだよ・・・俺が買った麻婆豆腐の食券に。

「・・・・・・・・・・・・その包み確か音無くんよね。どうして食券なのかしら?」
「ほ、ほら!これ誰も頼まないので有名な激辛麻婆豆腐だろ!?だからトラップに丁度いいなぁとこれに・・・」
「・・・かなでちゃんがその激辛麻婆豆腐が好きなことも音無くんと一緒に食べてることも知ってるんだけど。」
「・・・。」




・・・そして俺は散った。この仕打ちは理不尽だ。


【校庭付近階段前】


結局普通に渡すことにした。・・・あの騒ぎの後に演出なんて無意味だと思ったからだ。

「これ。」
「・・・トラップ?」
「違うんだすまん許してくれ。ええと、かなで・・・本当はこれをお前に上げたかったんだ。トラップはこの世界のジョーク、だ。」
「?・・・そう。ありがとう。」

かなでが包みを開けて出てきたのは・・・小さめな箱だ。
宝石が入っているような綺麗なものではないが宝石のように輝いてくれる希望が詰まった箱。

「これは・・・箱?」
「今開けてみてくれないか?」
「・・・うん。分かった。」




――――――――――さぁ、奏でてくれ。


ゆりSide  直井Side